2017年12月24日日曜日

作家もこそっと書くブログ16 モザイクまわりのジャッジ

上田です。
KBSでは、#165「チェスをかじる旅」が。
tvkでは、#3「名湯をめぐる旅」が。
再放送されたことでしょう。

「名湯をめぐる旅」は、勘のいい方はおやっと思われた通り、
画面の一部に、そこはかとなくモザイクがちらつきます。
本多の股間のあれではなく、フリップとかにです。

これの秘密を、お話ししなくてはいけない時が来てしまいました。
墓場まで持っていく予定だったんですけども。
そこまでのことではないですね。


なぜそうなったのか。
「ちょっと待った」がかかったんです。
当時(2011年)、KBSのプロデューサーさんからです。

ちょっと僕が迂闊だったんですけど。
温泉の効能について、あんまり裏がとれてない感じの情報を、
フリップに書いてしまったんですね。

テレビってやっぱり、公器ですからそう自由ではなくて。
当たり前なんですけど、いろいろと制約がありまして。
人を傷つける表現、誤解を招く表現、アンモラルっぽい表現。
そうでなくても、そうとられかねない表現。
そんなのってやっぱり、奔放には放送できなくて。

そこが、たとえば動画やVODとかと違うところであり。
不自由さでもありながら、美徳でもあるなあ、と。
僕が、テレビ放送が好きなところのひとつです。

たとえばですけど。
これ面白いけど、もしかすると誰かを
傷つけちゃうかもなー、とか。
不快に感じる人もいるかもしれないなー、とか。
よい子が真似したら、ドキドキするなあ、とか。

そういう「きわどい内容の放送」って、割とあるんです。
べつに過激なことを目指してなくても。日常的にある。
そして、それを放送していいか、よくないかのガイドラインって、
「特にない」んですよね。
(いやもちろん、基本的にはあるんでしょうけど)

だから、作り手と送り手が、
「こりゃあちょっと刺激が強いんじゃないか」とか。
「この冗談は、始めましての視聴者には通じないよ」とか。
「いやそれでも、面白いから放送する値打ちあるっすよ」とか。
そういうことを、自分たちの感覚で判断しながら、やるんです。
最終的には。

今回じゃないですけど、
たとえば「バスタブでんぐり返し選手権」という企画で。
ゲストのひとりが、バスタブにお湯を張ってでんぐり返ししてくれて。
勢い余って、背中を蛇口でがりっとこすってケガしてしまったときに。
でもそのシーンが、めっちゃくちゃ面白かったときに。

それをどこまで放送していいのか、よくないのか。
血を映さなければいいのか。赤くなってるのはアリなのか。
ガイドラインは、あるようでないんです。(きっと)

ここのところが、エキサイティングなところでして。
僕が好きな番組ではだいたい、とても危うげなところを、
セクシーにそして大胆にだけど優しく、突いておられます。
ちゃんと作り手が、身を挺して、GOしてるんですよね。
危険を省みながら、でも面白いので、踏ん切るという。
そして、ギリギリのところで、きちんと優しい、という。

暗い旅も、そういう番組になりたいもので。

「名湯をめぐる旅」を撮ったときは、無邪気で。
でも、放送前にチェックしてもらって、
「フリップに書いた効能を
 まるまる信じるお客さんだって、いる」
という指摘をうけて、ははーと、目から鱗でした。

想像力は大事やなと。いい方にも悪い方にも。
無茶をやるにしても、その上で、やなあと。
そこらへんのことを、始めたての頃に考えた旅でした。

旅の内容そのものは、入浴剤の風呂に入るだけという、
とても「谷くさい」ものでしたけど。


そんなことがあって。
「チェスをかじる旅」のときでも、実はどきどきしていたのは。
「チェスマニア」の人が見て、「そうじゃないよ!」みたいなことが
もしあったら、申し訳ないな、ということでした。

一同ルールを知らずにやってますから、読み間違えとかもあるわけで。
チェスのプロフェッショナルも、現場には一人もいないわけで。
だからこそ、未知の冒険で胸が熱くなる、
っていう旅だったんですけど。

チェスを愛好してる人が、たとえば見てくだすったとして。
「ああ、チェスのやり方、そうじゃないのにい!」みたいなことに、
うっかりなってしまってたら、どうしよう、と。
チェスを貶めてしまいますからね。

(たとえば僕が、演劇を取り扱った番組を見ていたりして、
 演劇のことが誤解されながら描かれていたら、
 すこしやっぱり、むう、となりますからねえ)

そんなことを考えながら、
「まあけど、この内容で目くじらは立てられるまい」って、
なんとなく肚をくくれたので、この企画を断行したんでした。
チェス人口をへらすようなことには、多分なるまいと。

なんだか真面目な話になってしまったですけど。
暗い旅をやっていて、面白いなあ、と思うのが、そこのところです。
関わっている人数が、極端に少ない番組ですので。
誰かが考えてくれるわけじゃないので。
自分たちと、局の担当者の方とで、体をはってジャッジする。
気遣うところは気遣って。攻めるところは攻めて。
ときには侃侃諤諤なんてしながら。

そういうことがマニュアルっぽくなく、できた暁には。
ちゃんと息遣いが伝わる、番組になるんではないか、と。
「名湯をめぐる旅」や「チェスをかじる旅」で、
そこまで気色ばむことでもありませんが。


俺たちの息遣い、届いてますか。

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